近年、建築業界に革新をもたらしているのが「3Dプリンター住宅」です。
従来の工法では実現が難しかった曲線的なデザインや、建築コストの大幅削減を可能にするこの技術は、世界中で注目を集めています。日本でも2022年以降、法令に準拠した建築例が登場し、実用化の動きが加速し始めました。
しかし、話題性の裏には多くの課題も存在します。たとえば、法的な整備の遅れや使用可能な建材の制限、施工条件の厳しさなどが挙げられます。
本記事では、3Dプリンター住宅の仕組みをはじめ、メリット・デメリット、今後の展望までを詳しく解説します。
さらに、建築やプロジェクトのご担当者様に向けて、3Dコンテンツ制作の実践的なノウハウをまとめた無料資料「3Dコンテンツプロジェクト実践ガイド」もご用意しました。実例と知見をもとに、プロジェクト成功のポイントをお伝えします。
・3DCGデザイナーの主な仕事内容
・3Dプリンター住宅とは
・3Dプリンター住宅のデメリット
・3Dプリンター住宅のメリット
・3Dプリンター住宅の耐久性について
・3Dプリンター住宅による建築に関する今後の課題
3Dプリンターによって作られた家『3Dプリンター住宅』とは?

3Dプリンター住宅とは、3Dプリンター技術を活用して建築された住まいを指します。
現在広く普及している3Dプリンターの原型となる発想は、1980年に日本の名古屋市工業研究所に所属していた小玉秀男氏によって生み出されました。
彼は、従来の印刷技術にヒントを得て、樹脂を一層ずつ重ねて立体物を成形する光造形方式という革新的な製造手法を構想しました。
このアプローチは、材料を削る従来の切削加工とは異なり、「積層による造形」という概念を取り入れたもので、現在の3Dプリンティング技術の礎となりました。
この発明により、複雑な形状や繊細な構造も製造可能となり、試作品の作成や製造業の効率化に大きな影響を与えました。当時は「ラピッドプロトタイピング」と呼ばれていましたが、のちにこの技術は「3Dプリンター」として世界に認知されることになります。
その後、1987年にはアメリカのチャック・ハル氏によって商用化が進み、グローバルな実用化が加速。小玉氏の先駆的なアイデアが、世界中の製造業やデジタルものづくりの未来に新しい道を築きました。
この造形技術を建築分野に応用したのが3Dプリンター住宅です。
大型の建設用プリンターを使用し、主にモルタルなどの素材を積層して壁や構造体を形成します。
施工方法には、現地にプリンターを設置して直接造る方式と、工場でパーツを製作して現場で組み立てる方式の2パターンがあります。
この分野の取り組みは2014年頃から本格化し、海外では高級ブランドのショールーム建設や、大規模住宅団地の施工、さらには老朽化した空き家の再生プロジェクトなど、さまざまな形で導入が進みました。
技術の進化と共に、プリンターの精度や速度も向上しています。
一方日本では、建築基準法の制約が厳しく、3Dプリンターを使った建築物の実現は長らく困難とされていました。
しかし2022年2月、法令を満たした初の建築物が登場し、その後ホテルや住宅などの建設が徐々に広がりを見せています。
2023年には、約50平方メートルの平屋が550万円という価格で販売されるなど、一般向けの展開も始まりました。
今後は、住宅ローンを組まずに手が届く家や、セカンドハウスとしての利用など、多様なニーズに応える形で3Dプリンター住宅の普及が進むと期待されています。
3Dプリンター住宅にはどのようなデメリットがある?
ここでは、3Dプリンター住宅のデメリットを紹介します。
1.日本の建築基準法に対応していない環境
2.使用できる素材が少ない
3.単調で無機質な見た目になりやすい
4.外壁・内装・ライフラインに追加工事が必要
5.施工には広く安定した敷地が必要になる
6.施工場所が制限される
それではここから、1つずつ詳しく解説します。
デメリット①日本の建築基準法に対応していない環境
3Dプリンターによる住宅建設がなかなか広まらない背景には、『建築基準法への未対応』があります。
建築基準法は、建物の安全性や耐久性などを守るための法的ルールを定めたものであり、伝統的な工法を前提とした基準が多く含まれています。
一方で、3Dプリンター住宅は従来の工法とは異なる技術を使うため、現行の基準との整合性が取れていない部分が多いのが現状です。
このため、3Dプリンターで家を建てる場合には、1件ごとに建築確認を取り、安全性を証明しなければなりません。
ところが、審査を行う機関によっては評価の前例が少なく、認可が下りないケースも報告されています。
今後、技術が成熟し、建築基準法の見直しが進めば、こうした住宅の普及も加速することが期待されます。
デメリット②使用できる素材が少ない
3Dプリンターによる造形は、特定の材料をノズルから押し出して層状に重ねていく仕組みです。
そのため、使用できる素材はプリンターの仕様に対応したものに限られます。
現在、3Dプリンターで建築される住宅では、主にコンクリートやモルタルといったセメント系の材料が用いられています。
木材や金属などの代替素材についても研究は進められているものの、まだ実用段階には達していません。
また、断熱材や内装材など他の建築素材との併用も設計段階で考慮する必要があります。
使用可能な材料が限られていることから、従来の建築工法と比べて設計の自由度や性能面で制約を受けるケースもあります。
デメリット③単調で無機質な見た目になりやすい
3Dプリンターによる住宅建設では、機種によっては積み重ねられた層の跡が目立ち、見た目が非常にシンプルになりやすい傾向があります。
このような特徴を逆に活かした建築デザインや、完成後に外壁を塗装して質感を調整する方法、さらには積層痕をできるだけ目立たせない工夫も普及しつつあります。
ただし、こうした住宅は従来の一般的な家屋とは印象が大きく異なるため、好みが分かれるため注意が必要です。
デメリット④外壁・内装・ライフラインに追加工事が必要
3Dプリンター住宅は、素材を積み上げて成形する構造上、表面に積層の筋(積層痕)が残ることがあります。
これを目立たなくするには、後から外壁に仕上げ処理を施す必要があります。
また、水道・電気・ガスなどのライフラインを引き込む工事や、内装・断熱などの仕上げ工程も別途実施しなければなりません。
さらに、一般的な住宅と同様に地盤調査や基礎工事も欠かせません。
そのため、3Dプリンターで建てる家は構造体の制作費だけでなく、こうした追加工事の費用も事前にしっかりと見積もる必要があります。
デメリット⑤施工には広く安定した敷地が必要になる
3Dプリンターでの建築を現地で行う場合、重量のあるプリンター本体をしっかり支えるための足場を構築する必要があります。
そのため、作業には十分な広さと安定した地盤を備えた敷地が求められます。
なお、建築物を直接その場で出力するか、別の工場で製造して搬入するかは施工業者によって異なります。
特に、限られたスペースに建物を建てたいケースでは、事前の確認と対応が欠かせません。
デメリット⑥施工場所が制限される
3Dプリンター住宅は、どこにでも建てられるわけではありません。
施工には大型の3Dプリンター本体を現場まで運び入れ、設置する必要があるため、広さや地形条件に制限が出てきます。
たとえば、土地が狭い場合や足元が不安定な場所では、機材の設置自体が難しくなります。
また、安定した電力供給や建材を置くスペースの確保も不可欠です。
さらに、施工時の騒音や安全面についても近隣への配慮が求められます。
こうした点から、都市部の狭小地や、山間部などアクセスが困難な地域では建築が難航するケースがあります。
反対に3Dプリンター住宅にはどのようなメリットがある?
ここでは、3Dプリンター住宅のメリットを紹介します。
1.建築コストを大幅に削減できる
2.工期が短い
3.独創的かつ自由なデザインが可能
4.廃棄物やCO₂の排出を抑えた環境に優しい建設が可能
それではここから、1つずつ詳しく解説します。
メリット①建築コストを大幅に削減できる
3Dプリンター住宅の大きな利点のひとつは、材料の無駄を最小限に抑えられる点です。
従来の工法では、加工時に端材や使い切れない資材が発生しがちですが、3Dプリンターは設計データに基づいて必要な分だけを正確に積層して建築します。
この仕組みにより、無駄な資材が発生しづらく、全体のコスト圧縮につながります。
加えて、必要資材が少なくなることで運搬回数が減り、輸送費の負担も軽減できます。
さらに、3Dプリンターによる建設は多くの作業を自動化できるため、熟練した職人を多く必要とせず、人的コストも抑えられます。
また、建築素材として主に使用されるのはセメント系の材料であり、木材を多用する従来工法とは異なります。
これにより、木材価格の変動に左右されにくい点も、安定的な費用管理を可能にする要因といえるでしょう。
メリット②工期が短い
3Dプリンターは24時間連続で稼働できるため、人の手作業に頼る時間を大幅に削減できます。複雑な構造を持つ住宅でも、コンピューターによる精密な制御によりスムーズに建設作業を進められます。
基礎工事が完了していれば、わずか数日で住居が完成するケースもあり、非常時における仮設住宅の供給手段としても注目されています。特に災害発生後の住宅不足解消に役立ち、避難生活の快適さを向上させることが期待されています。
実際、2024年に発生した能登半島地震の被害を受けた石川県珠洲市では、3Dプリンターで建設された住宅が公開され、大きな話題を呼びました。
メリット③独創的かつ自由なデザインが可能
3Dプリンターは、あらかじめコンピューターで作成されたモデルに沿って材料を積層していくため、滑らかな曲線やユニークな造形を形にしやすいのが特徴です。
従来の建築手法では難しかったデザインも再現できるため、自然の地形に溶け込むような曲線的な外観や、幾何学模様を取り入れた住宅も実現可能です。
実際に、洞窟を思わせるような独創的な形状の家や、芸術作品のような外観を持つ住宅が誕生しています。
メリット④廃棄物やCO₂の排出を抑えた環境に優しい建設が可能
3Dプリンター建築は、必要な分だけの資材を使って造形するため、廃棄物の発生を最小限に抑えられます。
また、リサイクル素材や地元で調達できる建材を使えば、輸送によるCO₂排出も抑えられ、より環境に優しい建設が可能です。
さらに、断熱性に優れた材料を使えば冷暖房の消費を抑えられるため、日々の暮らしにおいてもエネルギー消費の削減が期待できます。施工時だけでなく、居住後の環境負荷低減にも寄与する点が、この技術の大きなメリットです。
3Dプリンター住宅は木造住宅よも耐久年数が短い?これもデメリット

3Dプリンターで造られる住宅は、従来の木造建築と比較すると、現時点では耐久年数がやや短い傾向にあるとされています。
特に日本では、鉄筋や鉄骨を組み込む設計が難しいため、建築基準法を満たすのが困難で、地震や火災などの自然災害に対する耐性に課題があるとされてきました。
しかし近年、その状況に変化が生まれています。
たとえば、大手ゼネコンの大林組は、2023年に建築基準法をクリアした3Dプリンター建築「3dpod™」を完成させました。(参照:大林組)
この建物では、特殊モルタル「デンカプリンタル」と高強度素材「スリムクリート」を活用し、構造・防火・断熱などの要件を満たしています。このような技術革新によって、日本国内でも3Dプリンター住宅の実用化が着実に進んでいるのです。
今後はさらに技術が進歩し、耐久年数も大幅に延びていくと期待されています。3Dプリント住宅は、省力化やコスト削減の面でも注目されており、将来的には新たな住宅の選択肢として定着する可能性もあります。
3Dプリンター住宅の建築における今後の課題とは?
日本国内で3Dプリンターを用いた住宅建設が普及する上で、大きな障壁となっているのが建築基準法との整合性です。現在の技術では、鉄筋や鉄骨の組み込みが難しく、耐震性など法的に求められる構造基準を満たすことが困難です。
これが、3Dプリンター住宅における最も大きなデメリットとされています。
しかし今後の技術進化により、使用するプリンターの種類や施工方法を問わず、法的要件をクリアできる体制が整っていけば、日本においても3Dプリンター住宅がより一般的な選択肢として受け入れられる可能性は高まるでしょう。
まとめ
本記事では、3Dプリンター住宅のデメリットやメリットを徹底解説しました。
また、3Dプリンター住宅の耐久年数や建築における将来性なども詳しく紹介しています。
3Dプリンター住宅は、建設の省力化・コスト削減・デザインの自由度といった大きな利点を持つ一方で、現行の建築基準法との不整合や、使用できる素材の制限、施工場所の制約など、いくつかの課題も抱えています。
それでもなお、技術の進歩により耐久性や安全性は年々向上しており、日本国内でも実用化が現実のものとなりつつあります。
特に、災害時の迅速な住居供給や、低コスト住宅としての可能性には大きな期待が寄せられています。
今後は、制度整備や素材の多様化が進めば、より多くの地域やニーズに対応できる住まいの選択肢として普及が加速するでしょう。

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